Sakurada Marie, Ph.D. Candidate in History, Meiji University, “The Concept of Kingship in Ancient Japanese History”「日本古代史研究における『王権』の意味」
Ōken is the Japanese term for kingship. The use of the term “kingship” implies that a society has developed to the level of a state. In the field of ancient Japanese history, the term ōken began to be used in the 1950’s; and until 1997, when ARAKI Toshio published a paper entitled “The Current State of the Debate on Kingship「王権論の現在」,” the term was used to denote the central authority of Yamato from the third to the seventh centuries. Japanese historians used it to describe the central polity before the eighth century because they were reluctant to use terms such as “government,” “state,” “court,” and “monarchy” for the Yamato polity that they saw as not yet having reached the level of a mature state. In other words, the terms ōken and “state” were used in opposition to each other. In his 1997 paper, however, Araki proposed that the anthropological term “kingship” be adopted in studies of ancient Japanese history as an aspect of a state-level society. His proposal is an important contribution because it allows discussion of Japanese monarchy, tennōsei, in the comparative context of world history. It also allows us to consider temporal changes in kingship in Japanese history. While there are those who still disagree, it is important to realize that kingship is not unique to Japan’s history, and we need to ask ourselves what “kingship” means in the broader context of world history.
「王権kingship」とは、ある国家を統治する権力機構の頂点に立つ個人を「王」というとき、その「王」が帯びている権力をいう。そのため「王権kingship」と「国家」は、相互に作用し合う概念である。
日本古代史研究において「王権」という言葉は、1950年代から使用されはじめた。1997年に荒木敏夫「王権論の現在」が発表される頃まで、「王権」は、3~7世紀の中央権力を指す言葉として使用されていた。なぜなら、日本古代における成熟国家は、8世紀の律令制国家をもって成立したとされ、成熟国家以前を「政権」「国家」「朝廷」「王制」とも表現できなかったために、「王権」という語句が使用されたのである。つまり、「王権」は「kingship」とは結びつかない語句として使用されはじめ、当初「王権」と「国家」は、二項対立的な概念として使用されていた。
荒木は、文化人類学の「王権kingship」の概念を日本史に適用することを提起した。これにより日本古代史研究においても「王権」と「国家」は対立する概念ではなく、王権は国家に含まれる概念として使用されるようになった。
「王権kingship」が導入された功績は大きい。従来、日本の特殊性とて論じられてきた「天皇制」を「王権論」で論じることによって、地域と時代を選ばない比較王政史として検討する道が開かれた。また「天皇制」は時代がかわっても変化しないものとされるが、「王権論」で論じることにより、日本の王制も時代によって変化するととらえられるようになった。
現在の日本古代史研究では、いまだに「王権kingship」とは対応しない独自の概念で「王権」を使用する研究者がいる。しかし、「王権kingship」は日本史を日本だけのものにしないためにも、重要な概念である。そのことを自覚し、「王権」という語句が持つ意味、「王権論」を導入する意味を問い直す必要がある。
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